新型インフルエンザのこれまで

2009 年 5 月 18 日

検疫ではない国内初感染が神戸で報告されたのが16日(金)。
政府は「国内発生早期」を宣言しましたが週末を経て、今朝までに三菱東京UFJ銀行・三宮支店行員にも感染が確認され、兵庫・大阪で一気に93名まで感染者が増えました。「感染拡大期」への移行も時間の問題という印象です。

ウイルスそのものについて、現時点での研究機関、報道発表を暫定ながら個人的にまとめると…。

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■潜伏期間:2〜7日

(米疾病対策センターCDC)

■感染力:基本再生産数(R0)=3.1

(フランス国立衛生研究所などの研究チーム/ユーロサーベイランス電子版)

3/11〜5/2までのメキシコでの感染者数に基づき、ヒト−ヒト感染にかかる日数を3.1〜4.6日と想定して計算。再生産数は2.2〜3.1人と弾き出した。いっぽうで再生産数=1.4〜1.3とする疫学分析(英Imperial CollegeとWHO研究グルーブ)も。

※ちなみに日本で春に流行る麻疹(はしか)はR0=12〜18。SARSは4前後。季節性のふつうのインフルエンザは3程度。現段階での疫学的分析にはどうしても不確実な部分があるのは当然ですが、いずれにせよ季節性インフルエンザより感染力がやや高いと見ておくべきが妥当のようです。
※なお、今回の新型インフルエンザは、発症24時間前から感染力を持ち、発症後5〜7日間は持続するとされています。

■致死率:0.4%

(英ロンドン大を中心とする世界保健機関WHO研究チーム/サイエンス電子版)
※スペイン風邪は約2%だったとされ、アジア風邪は0.5%ほど。感染力を調査した先の英Imperial CollegeとWHO研究グルーブも、同様の分析。

■遺伝的由来:

8分節あるRNAを分析すると、
3本が北米のブタ由来、2本がアジア・ヨーロッパのブタ、2本がトリ、1本がヒト由来。
※また採取された各株の変異から分析すると、誕生から数ヶ月と間もないという見立て。

 

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ウタマロと試験管

2009 年 5 月 15 日

しばしば、生化学や分子生物学の調べ事をしていると「in vivo」とか「in vitro」という言葉が出てきます。

in vivo(イン・ビボ)は「生体内で」、in vitro(イン・ビトロ)は「試験管内で」という意味で、その実験がどんな環境下で行われたのかを大まかに示しています。
(ほかにも「in situ」とか「in silico」なんてのもあります)

こうした言葉はラテン語に由来するものがほとんどです。
中世では、公の文書や学術における公用語として、ラテン語が用いられていたその名残といってもいいかもしれません。


で、意外なところでこれが「つながっている!」と、知って驚いたのが、喜多川歌磨呂の美人画。

もうカンのよい方はお分かりですね。
…イン・ビトロ、びいとろ、びいどろ。そう、その通り!

当時、流行ったガラスのおもちゃと女性をモチーフにした「びいどろを吹く女」が、その一枚。誰でもなんとはなしに知っている浮世絵のひとつだと思います。

江戸時代にガラスのことを「びいどろ」と呼んでいましたが、佐賀県の武雄市図書館・歴史資料館のHPによれば、これはポルトガル語の「Vidro(ヴィーズロ)」が由来だとか。


ラテン語はかつてローマ帝国のラティウム(現在のラツィオ州。「長靴」で言えば、弁慶の泣き所の辺り !?)で生まれ、ヨーロッパ中に広がり、たくさんの言語の母体になった言語。
ポルトガル語もまた、しかり。
シチュエーションがまったく違うので、まさかつながっているとは夢にも思っていませんでした。


もうすでに、母語としてラテン語を話す人はこの星にはいません。
しかし、それでもなお言葉の遺伝子は、私たちが思う以上にタフなのですね。


余談)

刺身のビントロは、脂がのったビンナガマグロのことだそうで、さすがにこちらは無関係。
まったく別の生き物なのに、進化の過程で様相などがよく似る生き物がいますが、こちらはそんな感じでしょうか。(笑)

 

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やや想定外だった新型インフルエンザ

2009 年 5 月 4 日

■最初の分離から76年


当初、ブタインフルエンザ(Swine flu)とされていた病名は、風評被害等も配慮しWHOは、4月30日から「Swine-origin influenza A/H1N1」を新型インフルエンザの呼称とするよう改めました。
きょうは、これまでのことを踏まえ、すこし自分なりにインフルエンザウイルスにまとめておこうと思います。


インフルエンザは人間やトリ、ブタだけでなく、多くの哺乳類がかかります。ウマやイヌ、意外なところではクジラにも、です。

インフルエンザウイルスは大別するとA〜Cの3種類があります。私たち人からインフルエンザウイルスが最初に分離されたのは1933年のこと。A型でした。

インフルエンザウイルスの世界的大流行(パンデミック)として必ず名前が挙がる「スペインかぜ」が第一次大戦のころ、1918〜19年ですから、分離はその後ということになります。

過去にパンデミックの原因となったのは、すべてA型です。さらにA型は、ウイルスの表面粒子に突き出ている2種類のタンパク質(HAとNA)によって分類されます。

■新型は弱毒のH1N1のファミリー


今回の新型インフルエンザの「H1N1」というのは、HA(ヘマグルチニン)は1型で、NA(ノイラミニダーゼ)も1型を持っているタイプの仲間という意味です。
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