やや想定外だった新型インフルエンザ

■最初の分離から76年


当初、ブタインフルエンザ(Swine flu)とされていた病名は、風評被害等も配慮しWHOは、4月30日から「Swine-origin influenza A/H1N1」を新型インフルエンザの呼称とするよう改めました。
きょうは、これまでのことを踏まえ、すこし自分なりにインフルエンザウイルスにまとめておこうと思います。


インフルエンザは人間やトリ、ブタだけでなく、多くの哺乳類がかかります。ウマやイヌ、意外なところではクジラにも、です。

インフルエンザウイルスは大別するとA〜Cの3種類があります。私たち人からインフルエンザウイルスが最初に分離されたのは1933年のこと。A型でした。

インフルエンザウイルスの世界的大流行(パンデミック)として必ず名前が挙がる「スペインかぜ」が第一次大戦のころ、1918〜19年ですから、分離はその後ということになります。

過去にパンデミックの原因となったのは、すべてA型です。さらにA型は、ウイルスの表面粒子に突き出ている2種類のタンパク質(HAとNA)によって分類されます。

■新型は弱毒のH1N1のファミリー


今回の新型インフルエンザの「H1N1」というのは、HA(ヘマグルチニン)は1型で、NA(ノイラミニダーゼ)も1型を持っているタイプの仲間という意味です。
HA(ヘマグルチニン)は人の細胞にウイルスが侵入するときの接着剤の役割を果たし、NA(ノイラミニダーゼ)は逆にウイルスが人の細胞内で増殖後、宿主細胞表面から飛び出して切り離れるときに効果を発揮します。
(ちなみに、タミフルやリレンザはこのNAの働きをブロックすることで作用します。現段階では新型インフルエンザにも有効とされています)

HAには、H1〜H16まで。NAには、N1〜N9までのタイプがあることが知られていて、理屈上、16×9=144通りが存在し得ることになりますが、どの動物がどのタイプにかかるのかはだいたい決まっています。

インフルエンザウイルスはもともと水鳥に起源を持つと言われており、水鳥にはH1〜16までのすべてが見つかっています、ちなみにブタではH1、H3。H4、H5、H9、クジラではH3、H4、H13などが確認されています。

WHOは4月27日にフェーズ4に引き上げ、2日後(日本時間30日)にはフェーズ5にさらに、警戒レベルを上げました。

しかし、新型インフルエンザA型(H1N1)はこれまでの状況からすると、やはり今のところは強毒型ではない様子です。
(とはいえ、ふつうの季節性インフルエンザぐらいの毒性としても、日本では直接原因で年間500〜800人ほど(インフルエンザが死期を早めたケースも加味すると1万を超す推計がある)が亡くなっていますし、ましてや誰もが免疫を持っていないのですから、油断はできません)

■次に来るかもしれない「H5」のために


近年の研究では、HAの構造によって毒性に差が出ることが明らかになっています。
じつはHAは最初の状態では、細胞に取り付く機能を発揮しません。人の細胞に含まれるプロテアーゼによって、途中でちょん切られて初めて、細胞に取り付くことができるようになります。

プロテアーゼとは、タンパク質などを分解する酵素の一群のことをいいます。パパイヤを肉といっしょに料理すると「お肉が柔らかく仕上がります」なんて小技を耳にしたことがあると思いますが、これはパパイヤに含まれる「パパイン」というプロテアーゼの力。

人の体内でもさまざまなプロテアーゼは、栄養の吸収や、古くなったタンパク質の排除など、いろいろな局面で働いています。

強毒性のウイルス株では構造状、HAにプロテアーゼが近づきやすい形をしていたり、人の全身にあるプロテアーゼで切断されるのに対し、弱毒性のものでは反対に、プロテアーゼがくっつきにくかったり、呼吸器にあるプロテアーゼにしか切断されなかったりします。
当然、前者はそれだけどんどん侵入することができるわけで、これが大きく毒性を左右します。

ここ数年、私たちがもっとも恐れているシナリオは、高病原性鳥インフルエンザH5N1亜型のヒトからヒトへの感染です。

神戸大感染症センターは、インドネシアの4州で402頭のブタを調査し、52頭からH5N1型を検出。さらに中の1株はすでに人への感染力を持っているという調査結果をつい先日、報告しています。

かつて強毒性を示した型がH5やH7の亜系であったことを考えると、鳥インフルエンザによるパンデミックが起きた場合、今回の新型インフルエンザA(H1N1)より遥かに事態は深刻です。


新型インフルエンザA(H1N1)の登場は、いささか想定外の出来事でしたが、医療行政的に見れば、これはとても貴重な経験です。
感染の広がりを今後どのようにコントロールできるのか? あるいは各地域で適切な医療体制がしっかりと築け、機能するのか?

G.W.明けの成り行きに憂慮するとともに、(検疫漏れなども起きているようですし)出来たこと出来なかったことを、今から留意しておくことが、さらなる新型ウイルスの登場に備えて、大切なことだと思います。

タグ: H1N1, H5N1, Swine flu, タミフル, パンデミック, リレンザ, 感染症, 新型インフルエンザ, 鳥インフルエンザ

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